樹・奈月編A


  「先輩ッどうしたんですか?」

  私たちが来たのは学校の屋上。
  ここなら気がれなく話が出きる。 そう思った…。


  心地よい風が肌に直接伝わり気持ちがよい。

  「奈月ちゃんこの前私に話がありそうだったよね?それが気になって…」
  「あっ…」
  奈月の顔が赤くなった…

  「先輩…笑わないで聞いてくれます?」
  「うん」

  「私今好きな人がいるんです。でもその子…みんなと仲が良いから結構クラスで人気有って、友達に…相談できないんです」


  誰にも相談できないもどかしさ。

  誰かにいつか取られてしまうかもしれない不安。

  そんな中、奈月ちゃんハ1人で悩んでいたんだね。

  ヒカリは自分の恋と似ているところを照らし合わせていた。


  「大丈夫だよ!勇気出して?奈月ちゃんならキットうまくいくよ」
  「芽瑠も奈月ちゃんのこと応援してるよ」
  「ーーー先輩…」

  誰かを応援する事って、力を分けてあげることなんだよ?

  昔、誰かにそう言われた…

  今私は奈月ちゃんに勇気を分けてあげれているだろうか。


  「ーーーその子どんな子なの?」
  「いつも笑ってて、一生懸命で…困ってる私をいつも助けてくれるそんな人です」
  「良いじゃん!きっとその子と奈月ちゃんお似合いだよ」

  会ったことも、見たことも無いけど…
  きっときっと2人はお似合いだと思ったんだ。

  「彼…サッカー部で新橋樹って言うんですけど、これからいろいろ相談に乗ってくれませんか?」
  「うん。良いよ」

  「私たちも出来る限りのことはするから、まずはサッカー部の練習に顔をだしに行こッ」
  行動派な芽瑠はもう案を出してきた。

  「でも…急に行ったりなんかしたら迷惑が…」
  奈月は少しおどおどしている。
  「大丈夫!ヒカリがいるから」
  「え!?…私??」

  「大輔くんいるでしょ?サッカー部に!可愛い後輩のためにヒカリが人肌脱ぐんだよ」
  「先輩宜しく願いします!」
  奈月はヒカリに満面の笑みで言った。

  「芽瑠は来ないの?」
  「あたしは陸の部活見なきゃだし…浮気と思われるの嫌だからパス」
  「チョット…そんな薄情な…」


  そんなこんなで私は奈月ちゃんの付き添いで、サッカー部を見に行くことになった。
  これが吉とでるのか凶とでるのかは、まだ誰にも分からない。






  いざッサッカー部へと言うモノ…

  やっぱり無理です。。。

  私たち2人は今サッカー部の練習が見えるグランドの近くにいます。
  え、部活は?ですか??

  今日は何故か顧問の先生が出張で、お休みになりました。
  これって偶然?

  「奈月ちゃん。樹くんてどの子?」

  今紅白戦をやっているようで1年も2年も3年も関係なく試合をやっている模様。
  ボールを追いかける大輔の姿駄目に入った。相手はこちらに気づいていない様子。何となくボールを蹴る雰囲気が太一と被る。
  そりゃぁ昔教えてたし、ボール裁きが似てもしょうがないんだけど…

  奈月は少し樹を捜して…

  「あそこにいます。今ボール持っている子です」
  と言った。すぐさまヒカリもグランドに目をやる。
  そこには真剣にボールを蹴っている男の子の姿。

  何かに一生懸命に取り組む姿は、誰だって素敵に思える。

  お兄ちゃんも中学上がってすぐに先輩たちが自分より何倍も凄いってよく話してくれてたっけ
  そう思いながらしばらくサッカーを観戦していると…

  ボールを持った樹くんに向かって相手のスライディング。

  体勢を崩して、そのまま転んじゃった。

  「今かなりやばい体勢だったよね」
  「…はい。たいしたこと無いと良いんですけど…」

  奈月の顔がだんだん曇っていくのが分かる。
  少ししても起きあがらない樹を心配したチームメイトが心配して駆け寄っていく。

  「私たちも行こう」
  「はいッ」

  ヒカリたちは樹が倒れている場所まで掛けだした。






  「大丈夫か?新橋」
  「…っぅ」
  「ぉい誰かこいつ保健室に…」

  周りのチームメイトがガヤガヤとしている。

  「ちょっと失礼しまーす」
  ヒカリたちは人混みをくぐり抜けてその中心部へと向かっていく。
  ちょっとだけ周りの視線が痛い…。
  中心部まで来ると部長の大輔くんと目があった。

  「…なんでこんな所にヒカリちゃんが…?」
  口をぱくぱくさせながら言っている。

  …ちょっとだけ面白いかも。

  私は苦笑いをしながら大輔くんを見てから、地面に倒れ込んでいる樹くんを見た。
  「ちょっと見せてね」

  そう言って、彼の押さえている足首を見る。
  「動かせる?」
  と聞いてみると、顔をしかめながらも一応足は動いた。

  「多分捻挫だと思うから…。大輔くん」
  「はいッ」

  「樹くんを保健室に運んで欲しいんだけど…」
  「あー…俺行くよ。勇介…わりぃけどここ頼むわ」

  苦笑いをしながら、大輔は同級生の矢野勇介に頼んだ。勇介はにやにやしながら

  「アーーー愛しの八神のお願いだもんな。分かった大輔!ここは俺にまかせとけ」
  「勇介〜変なこと言うなよッ」

  あー大輔くん矢野くんのおもちゃだよ…

  「よし!みんな俺の話を聞け!」
  矢野くんなんか威張ってるし…

  「部長が新橋保健室送ってくから俺たちは、今日はコーチも休みだし練習終わろうゼ〜」
  「お〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

  「ッテ!お前等練習しろよ〜!!!」
  大輔は勇介に怒った。

  すると矢野は「みんな〜逃げろー」とか言って部室に逃げ込んでいった。それに続いてみんな乗り込んでいく。   
  なんてノリがいい部活…。

  残された私たちは、そんな光景を眺めていた。






  サッカー部のみんなが去った後、私たちは樹くんを連れて保健室へと向かいました。

  「新橋くん大丈夫?」
  「へーきへーき」

  奈月ちゃんは、大輔くんの背中に負ぶさっている樹くんを心配している。樹くんは一見平気を装っているが顔ははっきり言って笑ってない。
  私は一足先に保健室に入った。

  ガラガラー

  「あれ?誰もいない…」
  保健室を空けると、中はもぬけの殻で…

  「え・先生いないの?」
  大輔も、顔だけひょっこり中に入れて辺りを見回すけれど何処をどう見ても誰もいない。

  「しょうがない。樹くんそこ座って〜」
  私は適当に消毒液やら今必要である物を保健室から探し出し樹くんの目の前に座った。
  「応急手当だから、ちゃんとあとで病院行ってね」

  顔はにっこり笑っている。
  「まずは冷やして…」

  そう言ってヒカリはてきぱきと処置を施す。大輔と奈月は感心したように見ている。
  「先輩すごいです!尊敬します」
  「昔ね…ちょっと周りに危なっかしい人が多くて…頑張って勉強したんだ」

  昔、毎日のように擦り傷などを作ってくる太一を見かねてちょっとだけでも手伝えないかと思って勉強した応急手当。
  今なら自分のテーピングだって相手にする事だって出来るんだから、ちょっとだけ自信になっている。

  「はい!おしまい」
  「ありがとうございます」
  「どういたしまして♪」

  綺麗に巻かれた包帯は見事樹の足にぴったりなじんでいて、ちょっとした達成感がある。

  「ね!大輔くん。ちょっと松葉杖職員室に借りに行きたいから付いてきてくれる?」
  「いいよ」

  ヒカリは行き際に奈月にこそっと耳打ちをして保健室から大輔を連れて出ていった。
  「ヒカリちゃん、さっきあの子になんて言ったの?」

  大輔はさっきヒカリが起こした行動が気になるようだった。
  「んー大輔くんには秘密かな?」
  「え〜」

  「ね!それよりあの2人お似合いだと思わない?」
  ヒカリはくすっと笑っていった。

  「樹とあの女の子?」
  「大輔くんには分かんないかな〜」

  私たちは、出来るだけゆっくりと職員室へと向かった。


  どうか彼女(奈月ちゃん)の恋の花が咲きますように…






  去り際にヒカリ先輩に言われた一言。

  【頑張ってね】

  って…先輩!あたしに樹くんに告白しろって事ですか…?

  そんなの…無理ですよぉー;;

  「…井…深井」
  「へ?」
  「さっきから呼んでんのに何顔赤らめてボーっとしてんだよ」

    …私今自分の世界入ってた?

  「ははは…」
  (恥ずかしいよ///)

  「…ありがとな、心配してくれて」
  「あ…全然!それより足大丈夫?」

  さっきまでかなり腫れてた足首も今ではヒカリ先輩のおかげで痛みはそんなに無さそうだ。
  あれ? よく見てみるといっぱい怪我してる…。

  「新橋くん擦り傷いっぱいだね。消毒してあげようか?」
  「別にへーきだよ」

  あたしは有無を言わず消毒液を取り出す。
  どうして男の子って怪我してもそのままにしちゃうんだろ…
    消毒液を傷口に垂らしてガーゼで垂れないように止める。

  「怪我にへーきもなにも無いよ。ちゃんと消毒しなきゃ傷口からばい菌さん入っちゃうよ」
  「ははは…ばい菌さんって…俺幼稚園児じゃないし。そりやぁつい最近までランドセル背負って学校通ってたけど…」

  樹くんはつぼッたらしく笑いをこらえようとしてるけど…漏れてるよ??

  「面白いな、深井。ただのおっちょこちょいじゃないんだ」
  笑いすぎて涙が出てきたらしく、樹くんは目を少しこすった。

  「…そりゃぁ私もとろい所有るけど…新橋くん助けてくれるから結構大丈夫だし?ありがとね」
  「今回感謝すんのは俺の方。深井は違うだろ?あーさっきの先輩…」

  「ヒカリ先輩?」
  「そう。その先輩にも本当に感謝しないといけないし…」

  …なんかちょっぴり私彼女じゃないけど、ヒカリ先輩にやきもち妬いちゃう…。

  「ヒカリ先輩美人でしょ?もしかしてタイプだったりする…?」

  あ…自分で言い出しちゃった…言ったあとでちょっと罪悪感。

  「んー確かに嫌いなタイプではないけど…」
  ちょっと考え込んだ樹くんは顔を真っ赤にしながら言ってる。
  あたしの動機は早くなる一方で…心臓に悪い。



  「彼女にすんだったら俺には深井が良いかな」



     ーーーえ…?

  「嘘…ホントに?」
  「恥ずかしいから顔みんな!」
  そう言ってぐいっと引き寄せられた体は今樹くんの中にある。
  あたし今…きっと耳まで真っ赤だ。






  少しして、ぎゅっと抱きしめられた体が楽になって、樹くんの顔が目の前にくる。

  「…で、返事くれる?」

  子犬のような目で見つめてくる樹くんが可愛らしい…
  「……あたしもずっと好きでした///こちらこそこんなあたしで良ければ…」
  「俺は深井が良いの!」

  そう言って最高の笑顔を見せてくれてから、もう一回ぎゅっと強く強く抱きしめられた。
  今なら樹くんの嬉しい気持ちが私にも伝わってくるよ。

  「ゴメン…痛くなかった?」

  強く抱きしめすぎたかもと樹くんは心配してくる。
  「大丈夫だよ!あたしも嬉しいもん♪」
  「ね…俺のお願い聞いてくれる?」

  いきなりのお願いでちょっとだけ胸が弾んだ。
  「なに?新橋くん」
  「それ」

  それって言われて、私にはなんの事だが分からなかった。私がなんのことか分からずに不思議そうな顔をしていると…

  「『新橋くん』じゃなくて『樹』で良いよ」

  あ…そう言うことか。
  「じゃあ樹くんも『深井』じゃなくて『奈月』って呼んでよ」

  「うん。了解」


  それから私たちは何気ない会話をしてヒカリ先輩達を待った。






  「うわー遅くなっちゃったね」
  「先生何処やったかわからんとか…この学校の設備結構いい加減だよなー」

  ヒカリたちは職員室に行ったところは良いが先生が松葉杖を何処にやったか忘れたと言われ慌てて探していた。
  10分後なんとか奥の方にあるのを発見し、急いで保健室に向かった。

  先生は樹くんの家へ電話するといって、職員室に残った。

  「おまたせー」

  がらがらと扉を開けると仲良く会話をしている2人の姿が見えた。

   あれ?

  「おー先生が電話するって」

  大輔くんがそう言うと樹くんは慌てて

  「あ!今日俺ン家誰も居ないンすよ」

  「じゃー帰りどうすんだ?」

  「あー」

  自分はあまり長い間歩けないのでどうするか迷っているようだった。

  「あ…あたし送ってきますッ」
  奈月がそう言うので一斉に視線が奈月に向かう。

  「ちょっと待ってーなんで一斉にこっち見るかなぁ…」
  奈月は赤くなりながらそう言った。

  「あ、ゴメンゴメン」

  私たちはそれぞれ謝った。
  「ね!じゃあ先輩失礼しますね」

  奈月は樹を引っ張るようにして保健室を出ていった。

  「奈月ちゃんー樹くんけが人だからゆっくりねー」
  「なんか急にあの2人の距離感が狭まったような」

  大輔は何となく2人の間に気が付いたようだった。そこまで酷く鈍くはないよう…?


  「私たちも帰ろうか。ね!大輔くん」
  「ぉ…おぅ///」






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