樹・奈月編


  放課後…部活中

  「いくわよ!ヒカリ!」
  「ハイッ」

  相手が投げたシャトルをヒカリは綺麗な輪を描くように打ち返していく。
  パコーンパコーンとラケットで打ち返して反対側ヘ移動するシャトルを見ながら今年入ってきた新入生は目を丸く輝かせていた。

  すると1人の少女が、ヒカリの元に寄ってきた。

  「どうしたの?」
  ヒカリは新入生に優しく声をかける。

  「あの…先輩のプレイすっごく素敵です。私も先輩みたいに上手になりますか?」
  そう恥ずかしそうに声をかけてきた横に1つに髪を束ねている少女は瞳をキラキラさせていった。

  「うん。きっと上手になるよ!私も最初は下手だったし…」
  「先輩もですか?」
   「うん。私も1年の時…貴方みたいに上手にラリーを続けている先輩を見たら私もこんな風に上手になりたいなって思ったの。
   それから私は毎日練習したよ?大会でも努力は私を裏切らないって知ることが出来たし友達も沢山出来た。今でもバドミントンやって
    本当に良かったって思ってるわ」


  ヒカリは優しく少女に語りかけた。

  「私にバドミントン教えてくれますか…?」
  少女は恥ずかしそうに言った。

  「もちろん!私で良かったらいつでも聞きに来てね。夏には私たち3年は部活が終わっちゃって受験モードになっちゃうけど…歓迎する」
  「ア…ありがとうございます!」
  「そうだ!名前…教えてくれる?」
  「1年3組深井奈月です」
  奈月はぺこりと頭を下げた。

  「奈月ちゃんネ!私は3年2組の八神ヒカリ。よろしく」
  「よろしくおねがいします!」
  「私はヒカリと組んでる滝沢芽瑠デス♪ヒカリとは今同じクラスだよ。いつでも分かんないことあったら来てね!」

  奈月は嬉しそうに芽瑠に挨拶した。
  しばらく奈月はヒカリ達の練習を見て帰っていった。

  「良かったねヒカリ!可愛い後輩が出来て☆」
  芽瑠がヒカリをからかうように声をかけた。
  「からかわないでよ。芽瑠とも仲良くなったじゃん奈月ちゃん」
  ヒカリは芽瑠をからかいがえす。

  「でも奈月ちゃんいい子だったね」
  「私もそう思う。ここから先私たちより下の子が部活を引っ張っていくようになるんだから私たちは後輩に教えれること全部教えてあげないと」
  「ヒカリは良いこと言うねェ」
  「そんなことないよォ」

  ヒカリ達はくすくすお互いを笑った。






  とある日の下校時、部活が終わった面々は一緒に家路へと着く。とある日の下校時、部活が終わった面々は一緒に家路へと着く。

  「部活の調子はどう?」
  「私はまあまあだよ。1年生も入って来て毎日が楽しいし♪」
  ヒカリはニコニコしてタケルの質問を返す。

  「俺も!サッカー一緒に出来る仲間が増えてめちゃくちゃ嬉しいぜ」
  大輔はワクワクした顔で言う。

  「僕も1年生が昨年よりも多く入部してくれたし、上手な子も沢山いるからその子達とプレーするのはいいもんだよね」
  私たちは、日々の楽しい部活動の話をしていた。

  「でも、もうすぐ支所予選だ。僕たちの中学の部活はいったんここで終わってしまうんだよね」
  「そっか…もうそんな時期」

  去年までの私たちはまだあと1年あると思っていたけど、案外時が過ぎるのは速いもので。
  「でも、やろうと思えばいつだって出来るだろ」

  「大輔くんはサッカー推薦が通れば良いと思うけど、僕たちには受験が待っている」
  「俺だって!受かるかなんて分かんねーだろーが」
  大輔が少し腹を立てる。

  「大丈夫だよ!大輔くんなら、毎日の練習必死に頑張ってるの私知ってるから」
  ヒカリの中で毎日汗水垂らして走り回っている大輔の姿が浮かぶ。
  大輔は本当によく頑張っていた。忙しい委員会も部活も一生懸命にやっている。
  ヒカリが「私がやろうか?」と言った仕事でも「大丈夫。ヒカリちゃんも大変でしょ?」って言っていつも走り回っている。

  「サンキュ!ヒカリちゃんに言われると力がパワーアップするぜ」
  大輔はヘヘッっと笑った。

  「僕もがんばろー。どういえば…支所予選が終わったら8月1日がもうすぐだ」
  「私。今年も手帳に書いてあるわよ」
  ヒカリは自分の鞄からシステム手帳を取り出して、8月の所を開いた。

  「大輔くんの場合8月1日の計画が8分の1計画だもんね」
  タケルがふざけながら言う。
  「オィ!タケルそんな昔の話出すなよー!」

  「アハハ…懐かしいね。私もそのセリフ毎年思い出しちゃう」
  「今年も行くでしょ?フジテレビ。父さんにアポ取っておくね」
  タケルが気を使って言う。

  「……ありがとうタケルくん。みんなで集まるの久々だねぇ…」
  「賢とかミミさんそれに丈さんなんかほとんど会えねぇーし」
  「懐かしいね。まぁほとんどがもう選ばれし子どもとは言えないけど」

  「1年ぶりのデジタルワールドか…」
  「冒険してた時みたいにワクワクしてくるゼ」
  大輔は今からでも体がうずうずしている様だった。
  「僕は世界が闇のない平和な世界でいてくれるだけで嬉しい」
  「そうだね。タケルくん私もそう思うよ。まずは1日1日を大切にしないと!」


  私はまだ知らない…。

  私の身近での変化…

  そして…

  運命の歯車がすでに回りだしてしまったことも…。






  「芽瑠いくよー」
  「いいよっ」

  ヒカリと芽瑠は交互にシャトルを器用に打ち合っていく。
  しばらくするとダブルスの練習に入り、ヒカリと芽瑠のコンビ技が炸裂していた。
  ヒカリと芽瑠は部内でもトップレベルの選手で、部のみんなにも信頼が厚かった。

  「チョット…私顔を洗ってくる」
  「あっ!私も行くー」

  蛇口をひねると、冷たい水がわき出すように出てくる。

  「ぷふぁ〜キモチィ」
  ヒカリは前髪を小学5年生の時と似たような髪型で、顔についた水滴を持ってきたタオルで拭き取った。

  「私早く泳ぎたいなァ。最近暑いし」
  芽瑠は煌々と照らす太陽を見つめながら言った。そこへ…
  「アッ!ヒカリちゃん」

  汗びっしょりのタケルが現れた。

  「タケルくんも顔を洗いに来たの?」
  「うん。沢山汗かいたからね。」
  タケルはハハハと笑いながら言う。

  「高石くんはバスケ部だから私たちより汗かきそうだもんね」
  「ア…うん。部室とか結構汗臭いよ。マァ…剣道部には負けると思うけど」

  芽瑠が嫌そうな顔して言う。
  「あそこはファブリーズやらスプレーやらの臭いが充満しているから…」
  「前に卓球部の人が、同じ室内なのに剣道部の部室とかに近づくと臭いが変わるって聞いたこと有るかも…」
  ヒカリが思い出したように言う。それを我慢出来る伊織は結構肝が据わっているんだと改めて思うヒカリだった。

  「そう言えば、ヒカリちゃんその髪型懐かしいね」
  「…5年生の時よりかは結構髪の毛が伸びたけど…今じゃあんまり前髪止めることないもんね」
  「おーいタケル」
  向こうでタケルを呼ぶ声がする。

  「タケルくん練習戻らないと…」
  「あ、うん」
  タケルは急いで顔を洗い、体育館へと戻っていた。

  「いいなぁ〜あんな格好いい幼なじみがいて」
  「芽瑠には陸くんがいるじゃん」
  「陸は別もの!でも最近部活にのめり込んじゃって…あんまり相手してくれないんだー。ヒカリは幸せだよ。本宮くんとも幼なじみじゃん。
   これじゃあ両手に花?イヤ…団子?」
  「別にそんなんじゃないから…。私は当分片思いダヨ」

  「ヒカリまだ諦めてなかったんだ…」
  「ウン…未練がましいよねホント…」


   どうしても消えないこの想い。


   貴方のことが思い出に変わる日は来るのかな??


   大好き…


   貴方のことがホントに大好きなの…






  ハツコイ…

  それは誰もが経験するモノ。


  時期は人それぞれ違うし


  恋する相手も違う。


  私はどうして貴方に恋したんだろう…


  どうしてこれが初恋なんだろう…



  多分…



  貴方がすっと私の側についていてくれたからだね。。。



  イツモ…



    いつも私のこと守ってくれていたからだね。



  アリガトウ…


  「初恋はそんなに簡単には消えないよ?だって初めて恋するって気持ちが分かるときなんだもん」

  芽瑠の言葉がヒカリの心に強くこだまする…

   「ソンナノワカッテルヨ」

  本当はそう言いたかった。
  「でも初恋は実らないッテ…結構当たってるかもネ。私の場合は特に…」
  「そうだけど…ヒカリは…ヒカリは幸せだよ?だって…一生太一さんとは家族でいられるんだから!!」

  「家族じゃなければお兄ちゃんの目に私は一度も入らなかったのかな?…それもまた悲しいね…」
  ヒカリの瞳にうっすら涙が滲んでくる。

  「ははっ……私のブラコンも相当なもんだね」
  ヒカリは軽く舌を出して無理をして笑顔を作った。

  そこへ偶然もじもじとしてこちらを菜月が見ているのをヒカリは見つけた。
  「ヒカリ先輩少し…相談に乗って貰ってもいいですか?」
  「どうしたの?菜月ちゃん」
  「あの…その…えっと…」  

  だんだん菜月の顔が真っ赤になっていく。
  「すいません!この話また今度聞いて下さい!」
  それだけ言うと菜月はすたこらと体育館へと戻っていった。

  「どーしたんだろう?菜月ちゃん」

  後ろではもしかしたら…と何かを感じ取った芽瑠がにやにやしながら笑っていた。






  昼休みヒカリと芽瑠は1年の教室の前まで来ていた。

  「エー…ヒカリあたしたちが1年の所いるとかなり目立つよ?」
  「でも…奈月ちゃん困ってたみたいだし、先輩としては協力してあげたいじゃない」

  実際1年の廊下にいる私たちはかなり浮いていて、恥ずかしいことは恥ずかしい。

  「…ヒカリさん。こんなところで何してるんですか?」
  後ろから声がした。振り返ってみると…

  「伊織くん!」
  「知り合い…?」
  芽瑠が不思議そうに伊織を見ている。

  「うん。ちょっとした戦友…?」
  伊織は苦笑いで此方を見つめている。

  「あ、火田伊織です。宜しくお願いします」
  伊織は芽瑠に挨拶をした。

  「礼儀正しい子だね。滝沢芽瑠です此方こそ♪」
  「…で、なんでヒカリさんと芽瑠さんが1年の廊下に?」
  「ちょっと部活の後輩の子に会いに…」

  「御2人共かなり目立ってるので、早く用事済ませた方がいいと思いますよ。それじゃあ…」
  伊織はそのまま去っていった。

  私たちは、そのまま奈月のクラスに向かった。教室を見渡すと、友達と喋っている奈月の姿があった。

  ヒカリたちはそのまま奈月を教室の外まで呼び出した。

  「先輩…ッ急にどうしたんですか?」
  「話があって…ちょっと時間ある?」
  「大丈夫です」

  奈月は時計を見ながら言った。
  ヒカリたちは、そのまま奈月を連れて1年の教室を後にした。


  しかしその姿を目で追ってる奴がいるとは、その時はまだ奈月たちは知らなかった…






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